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東京地方裁判所 平成5年(ワ)20125号 判決

原告

破産者株式会社ホールマン・オフィス破産管財人

戸谷博史

被告

株式会社イージー・フィルム

右代表者代表取締役

萩原攷司

右訴訟代理人弁護士

神毅

主文

一  原告と被告との間において、原告が、別紙目録一、二記載の供託金の還付請求権を有することを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、平成四年八月一八日午後二時破産宣告を受けた訴外破産者株式会社ホールマン・オフィス(以下「ホールマン・オフィス」という)の破産管財人である。

被告は、アニメーション映画及びビデオソフトの製作等を目的とする株式会社である。

2  ホールマン・オフィスの訴外株式会社テレビ東京(以下「テレビ東京」という)に対する債権

ホールマン・オフィスはテレビ東京に対し、「アニメ・あゝ播磨灘」(以下「本件番組」という)のテレビ番組製作契約に基づき、次のとおりの債権を有していた。

(一) 平成四年七月分の製作代金債権二〇〇八万五〇〇〇円(別紙目録一記載の供託金の目的となる債権。以下「債権1」という。)

(二) 平成四年八月分の製作代金債権六六九万五〇〇〇円(別紙目録二記載の供託金の目的となる債権。以下「債権2」という。)

3  ホールマン・オフィスの被告に対する債権譲渡

ホールマン・オフィスは、平成四年七月二一日被告に対し、債権1及び2を譲渡し、右債権譲渡についてはいずれも同年八月四日テレビ東京に対し、確定日付のある証書により通知がなされた(以下「本件債権譲渡」という)。

4  ホールマン・オフィスの支払停止及び破産申立て

ホールマン・オフィスは、平成四年四月ころから手形の支払が困難となり、同月は約六〇〇〇万円、翌五月は約一億五〇〇〇万円の手形のジャンプによって支払停止処分を免れたが、同年七月三一日に第一回目の手形不渡りを出して支払停止となった。その後、ホールマン・オフィスは、同年八月三日第二回目の不渡手形を出し、同月七日には債権者集会において自己破産申立の方針を決定し、同月一七日東京地方裁判所に対し自己破産の申立てをした。

5  本件債権譲渡の無効又は否認

(一) 債権譲渡禁止特約の存在及び被告の悪意・重過失

(1) ホールマン・オフィスは、平成四年二月一三日テレビ東京との間で、前記テレビ番組製作契約を締結するにあたり、同契約により生じる権利を第三者に譲渡することを禁止する旨合意した(以下「本件譲渡禁止特約」という)。

(2) 被告は、本件債権譲渡を受けるにあたり、債権1及び2には本件譲渡禁止特約が付されていることを知り、又は重大な過失によりこれを知らなかった。

したがって、本件債権譲渡は無効である。

(二) 故意否認

本件債権譲渡は、いずれもホールマン・オフィスが、破産債権者を害することを知ってなしたものであるから、原告は、破産法七二条一号により右の債権譲渡を否認する。

(三) 危機否認

ホールマン・オフィスは前記のとおり平成四年七月三一日不渡手形を出して支払停止となったところ、本件債権譲渡は、いずれもホールマン・オフィスが右支払停止の一〇日前である同月二一日になした担保の供与に関する行為であって、かつ、ホールマン・オフィスの義務に属しない行為であるから、原告は、同条四号によりこれを否認する。

6  テレビ東京による本件債権の供託

テレビ東京は、債権1及び2について、本件譲渡禁止特約に関する債権者不確知を供託原因として供託している。

7  結論

よって、原告は被告に対し、原告が別紙目録一、二記載の供託金の還付請求権を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の事実のうち、不渡日、破産申立の事実は認め、その余は不知。

3(一)  同5(一)(1)の事実は不知、同(2)は否認又は争う。

(二)  同5(二)、(三)は否認又は争う。後記のとおり、本件債権譲渡は債権者を害する行為にあたらない。

4  同6の事実は認める。

三  被告の主張

1  被告とホールマン・オフィスとの間のフィルム製作販売契約の締結及び代金決済の遅延

(一) 被告は、平成三年一二月ころホールマン・オフィスに対し、テレビ東京において放映予定の本件番組の映画フィルム全四八巻を、平成三年一二月から同五年二月までの間、代金一巻あたり六五〇万円(消費税込みで六六九万五〇〇〇円)で、月末締切り翌々月一〇日払いの約定で、製作販売する契約をした(以下「本件製作販売契約」という)。

(二) 被告は、テレビ東京の放映予定に合わせてホールマン・オフィスに対し、約定通り本件番組のフィルムを納入していたが、平成四年五月からホールマン・オフィスの代金支払が遅滞し始め、同年六月、七月の支払も約定どおりなされなかった。そこで、被告は、同月三〇日本件番組第一三及び一四話を納入するに際してホールマン・オフィスに対し、代金支払との同時履行を強力に主張し、ホールマン・オフィス及び協議に加わったテレビ東京との間で、同社が翌三一日に右代金をホールマン・オフィスを介して被告に支払うとの合意が成立したため、ホールマン・オフィスに対し、本件番組第一三及び一四話を納入した。

しかるに、ホールマン・オフィスは同日支払の場に欠席したため、被告は右代金一三三九万円(消費税込み)の支払を受けていない。

2  別除権たる動産売買先取特権の行使

(一) ホールマン・オフィスは、その破産宣告時テレビ東京に対し、本件番組第一一ないし一四話の製作代金債権を有しており、このうち第一一ないし一三話の代金債権が債権1、第一四話の代金債権が債権2である。

(二) 前記のとおり、被告はホールマン・オフィスに対して本件番組第一三話及び一四話の製作代金債権一三三九万円を有しているので、ホールマン・オフィスが右番組をテレビ東京に販売した製作代金債権につき、動産売買先取特権を有する。したがって、本件債権1のうち六六九万五〇〇〇円の部分(本件番組第一三話をテレビ東京に納入したことによる製作代金債権)及び本件債権2(同番組第一四話をテレビ東京に納入したことによる製作代金債権。以下、これらの債権を総称して「本件番組第一三及び一四話の製作代金債権」という。)についてなされたホールマン・オフィスの被告に対する債権譲渡は、被告の先取特権の行使としてなされたものであって、原告の否認権行使の対象とはならない。

(三) 原告は、本件製作販売契約が請負であって、動産売買先取特権の規定の適用はないと主張する。しかし、同契約は、被告が自己の材料を用い、その責任において完成した映画フィルムをホールマン・オフィスに販売する契約であり、仮に請負と販売の混合契約という要素があるとしても、極めて売買に近い契約である。

また、原告は、同契約の目的物は動産ではなく著作権であると主張する。しかし、被告は自己の製作したフィルムの著作権を有しないから、同契約は著作権成立以前の単純な映画フィルム(動産)の製作販売契約にすぎない。さらに、ホールマン・オフィスとテレビ東京との間の前記番組製作契約も、映画フィルムコピーの単純な売買であり、著作権の譲渡ではない。

3  「破産債権者ヲ害スル」との要件の不存在

破産法七二条一及び四号にいう「破産債権者ヲ害スル」とは、破産者の積極財産を減少させ又は債務を増加させて既存の財産を減損させることをいうところ、本件債権譲渡がなされたからこそ、ホールマン・オフィスは被告から円滑にフィルムの引渡しを受け、これをテレビ東京に納入することにより製作代金債権を取得し、併せてテレビ放映後のビデオソフト権を取得することができたのであるから、本件債権譲渡は、破産債権者を害し、又は一般債権者との公平性を害するものであるとはいえない。

4  破産債権者を害することについての被告の善意

被告のホールマン・オフィスに対する本件番組第一三及び一四話の製作代金債権は、本件債権譲渡がなされた時点では発生しておらず、被告が同年七月三〇日ホールマン・オフィスに対して右フィルムを納入した時点で発生したものである。被告は、自分の将来の債権を担保するため、先取特権の目的物である製作代金債権の譲渡を受けたのであって、仮に本件債権譲渡が破産債権者を害する行為に該当するとしても、被告はそのことを知らなかった。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

1  被告の主張1(一)の事実は認め、同(二)の事実は否認する。

2  同2(一)の事実は認め、同(二)、(三)は否認又は争う。

本件製作販売契約は、動産の売買に関する契約ではなく、著作権の請負契約ないし製作物供給契約である。すなわち、同契約の目的は映画フィルムの製作であって、その目的物は不代替物であり、かつ、契約の目的は目的物の所有権の移転ではなく仕事の完成であるから、同契約は請負契約ないし製作物供給契約である。また、同契約の目的は、本来映画フィルム製作者である被告に帰属すべき著作権をホールマン・オフィスに取得させることにあり、映像が固定された動産(映画フィルムのテープ等)自体の譲渡は、著作権の譲渡に付随した行為にすぎない。

また、本件は動産売買先取特権に基づく物上代位権行使の問題であるところ、本件債権1及び2は、ホールマン・オフィスがテレビ東京に対して動産を売買したことによる交換価値の具体化によって発生したものとはいえないから、被告は物上代位権を行使できず、本件債権1及び2には被告のホールマン・オフィスに対する動産売買先取特権は及ばない。すなわち、ホールマン・オフィスとテレビ東京との間のテレビ番組製作契約は、その目的が製作の約諾であり、契約内容として著作権の帰属及びその行使方法のみが規定され、納入素材の特定はなく、納入素材の返却についても規定もおかれていることから、右契約が動産の売買ではないことは明らかである。

3  同3は否認又は争う。

4  同4の事実は否認する。

第三  証拠

本件記録の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし3、6の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因4(ホールマン・オフィスの支払停止及び破産申立て)の事実のうち、不渡日、破産申立の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実、並びに成立に争いのない甲第四号証、証人藤中秀紀の証言によれば、ホールマン・オフィスは、平成四年四月ころから手形の支払が困難となり、同月及び翌五月は手形のジャンプによって支払停止処分を免れたが、同年七月三一日に第一回目の、同年八月三日に第二回目の不渡手形を出し、同月一七日には東京地方裁判所に対し自己破産の申立をして、翌一八日午後二時同裁判所において破産宣告を受けたことが認められる。

三  請求原因5(三)(危機否認)の事実について判断する。

1  ホールマン・オフィスが平成四年七月三一日に第一回目の不渡手形を出したことは右認定のとおりであり、同認定の破産宣告に至る経緯に照らせば、右はホールマン・オフィスが財産的危機状態に陥ったことに伴うものであると認められるから、右手形不渡りの事実をもって、破産法七二条四号にいう支払停止と認めることができる。したがって、本件債権譲渡は支払停止の一〇日前になされたものであると認められる。

2  原告は、本件債権譲渡が、ホールマン・オフィスによってなされた担保の供与に関するものであって、かつその義務に属しない行為であると主張し、被告は、本件番組第一三及び一四話の製作代金債権の譲渡は、被告の動産売買先取特権の行使であって、原告の否認権行使の対象とならないと主張するので、この点につき検討する。

(一)  前記甲第四号証、成立に争いのない丙第一、第二、第四号証、前記証人藤中の証言とこれにより真正に成立したものと認められる甲第一号証、被告代表者本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認められる丙第三号証を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(1) テレビ東京は、平成四年二月一三日ホールマン・オフィスとの間で前記番組制作契約を締結するにあたり、本件番組一本あたり六五〇万円(総額一億四九五〇万円)、支払方法は当月放送本数分を翌月末日現金払い、ホールマン・オフィスはテレビ東京に一インチビデオテープの形で納入する、テレビ東京はホールマン・オフィスから右番組の放送権及び優先放送権を独占的に取得する、ホールマン・オフィスは、テレビ東京が取得する右番組の海外放送権、録音録画物等複製利用頒布権、商品化権及び上映権の行使に伴う利益配分請求権を取得する、との約定の番組製作契約をした。

(2) ホールマン・オフィスは被告に対し、本件番組製作のため、ホールマン・オフィスが企画及びシナリオ製作をし、被告がこれに基づいて番組フィルムを完成して、一六ミリフィルムの形でホールマン・オフィスに引き渡す、代金番組一本当たり六三〇万円(ホールマン・オフィスがテレビ東京から受領する金額からホールマン・オフィス側で準備するシナリオ代金二〇万円を差し引いたもの。消費税込みで六四八万九〇〇〇円。)、支払方法は月末締め翌々月一〇日払い、右番組の著作権等はホールマン・オフィスに帰属するとの約定で、右番組の製作を一括して下請けに出す旨の本件製作販売契約を締結した。

(3) ホールマン・オフィスは被告に対し、平成四年四月まではほぼ約定どおり製作代金を支払っていたものの、翌五月及び六月分の支払が遅延した。被告は、同年五月ころからホールマン・オフィスの経営状態が悪化しているとの風評をも耳にするようになったこともあり、同月二五日ホールマン・オフィスに対し、同月三〇日に本件番組第一一話を納入する際、これと引換えに第九話ないし一一話の代金合計一九五〇万円を支払うこと、以後は番組納入と引換えに代金六五〇万円を支払うことを要望した。

(4) 被告は、その後ホールマン・オフィスから、本件番組第九、一〇話の代金の支払を受けたが、同年七月後半に同社が倒産の危機に瀕しているとの噂を聞くに及んで、同社に対し、同月納入予定の本件番組第一三話ないし一六話の代金支払を保障するよう強く要求したところ、ホールマン・オフィス従業員山出プロデューサー及び長田顧問は本件債権の譲渡を申し出た。これを受けて、同年七月二一日、被告はホールマン・オフィスから、被告のホールマン・オフィスに対する債権を担保するため、本件債権1(本件番組第一一ないし一三話をテレビ東京に納入したことによる製作代金債権)及び本件債権2(同番組第一四話をテレビ東京に納入したことによる製作代金債権)の一部五八七万一〇〇〇円を譲渡する旨合意した。

以上の事実が認められる。

(二)  右事実によれば、本件債権譲渡は、ホールマン・オフィスの経営状態の悪化に伴い、被告がホールマン・オフィスに対して番組製作代金の支払を強く求めたのに対し、その債権の担保のために、ホールマン・オフィスからの申し出に応じてなされたものであって、破産法七二条四号にいう担保の供与に関する行為であり、かつホールマン・オフィスの義務に属しないものであると認められる。

(三)  これに対し、被告は、本件番組第一三及び一四話の製作代金債権の譲渡が、被告の動産売買先取特権の行使である旨主張する。

(1) 右認定の事実によれば、本件製作販売契約は、ホールマン・オフィスの企画に基づき、その製作したシナリオに従い、被告が費用を出捐してテレビ番組を製作し、これを被告が準備した素材である一六ミリフィルムの形でホールマン・オフィスに納入することを内容とするものであって、純粋の動産売買契約ではなく、請負と売買の双方の性質を併有するいわゆる製作物供給契約であると認められるところ、いわゆる製作物供給契約に民法三二二条の適用されるかについては、右契約において、当事者が製作されたものを代替物として取り扱う場合には売買の規定が適用されるのに対し、不代替物として取り扱う場合には請負の規定が適用されると解するのが相当であり、本件における右製作販売契約が、ホールマン・オフィスの企画に基づく不代替物の製作・引渡しを目的とするものであることは前認定の事実から明らかであるから、右契約には請負に関する規定が適用され、売買に関する規定は適用されないものというべきであって、民法三二二条の文言及び立法趣旨に照らし、同条を類推適用することはできないと解するのが相当である。

(2) 被告は、製作したフィルムの著作権を有しないから、右契約は単純な映画フィルム(動産)の製作販売契約にすぎないと主張するが、被告がホールマン・オフィスとの間において、自己の製作にかかる番組の著作権の帰属につきいかなる合意をするかという問題と、右製作販売契約が売買又はこれに準じるものとして民法三二二条の適用ないし類推適用を受けるかという問題とは、直接的には結びつかないというべきであるから、被告の右主張は採用することができない。

(3) したがって、被告は、本件番組第一三及び一四話の製作代金債権につき、動産たる右番組フィルムの所有権、又はこれをテレビ東京に売却したことによりホールマン・オフィスが取得する製作代金債権上に、別除権たる動産売買先取特権を有するものということはできない。

3 次に、被告は、本件債権譲渡がなされたからこそ、ホールマン・オフィスは被告から円滑に本件番組の引渡しを受け、これをテレビ東京に納入することにより製作代金債権及びテレビ放映後のビデオソフト権を取得できたのであって、本件債権譲渡は、破産債権者を害し、又は一般債権者との公平性を害するとはいえないと主張する。

しかし、本件製作販売契約に請負の規定を適用すべきことは前記のとおりであるところ、破産宣告前の原因に基づく請負契約において、仕事の完成後に注文者が破産の宣告を受けたときは、請負人の報酬請求権が破産債権となるにとどまることは破産制度上当然のことであるから、ホールマン・オフィスが本件番組納入により、事実上、テレビ東京に対する製作代金債権及びテレビ放映後のビデオソフト権を取得できたとの事情があったとしても、右事情のみをもって、本件債権譲渡が破産債権者を害するものに当たらないとはいえない。したがって、被告の右主張は採用できない。

4 また、被告は、仮に本件債権譲渡が破産債権者を害する行為に該当するとしても、被告がそのことにつき善意であったと主張する。

前認定の事実によれば、ホールマン・オフィスは、平成四年四月ころから手形の支払が困難となり、同月及び翌五月に手形のジャンプによって支払停止処分を免れたが、同年七月三一日に第一回目の、同年八月三日に第二回目の不渡手形を出したこと、ホールマン・オフィスは被告に対し、平成四年四月までは約定どおり番組製作代金を支払っていたものの、翌五月及び六月分の支払を遅延したため、被告は同年六月二五日ホールマン・オフィスに対し、以後代金と番組納入と引換えに代金を支払うよう強く申し入れたこと、被告は、同年五月ころからホールマン・オフィスの経営状態が悪化しているとの風評をも耳にするようになり、同年七月後半には同社が倒産の危機に瀕しているとの噂を聞くに至ったこと、このため、被告がホールマン・オフィスに対し、同月納入予定の本件番組第一三話ないし一六話の代金支払を保障するよう強く要求して本件債権の譲渡を受けるに至ったというのであるから、これらの事実によれば、被告が、本件債権の譲渡を受けた当時、右の債権譲渡によって他の一般債権者を害すべきことを知らなかったとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件債権譲渡が破産債権者を害することにつき善意であったとの被告の主張を認めることはできない。

なお、前記丙第一、第二号証、被告代表者本人尋問の結果によれば、本件債権譲渡の時点では、被告はホールマン・オフィスに対し、本件番組第一一及び一二話は納入していたが、第一三及び一四話は納入していなかったこと、被告は本件番組第一三話ないし一六話の納入により将来発生する本件番組製作代金債権の担保のため、本件債権譲渡を受けたことが認められるが、右事実のみによっては、未だ右認定を左右するものとはいえない。

5  以上によれば、本件債権譲渡は破産法七二条四号に基づき、否認権行使の対象となると認めるべきである。

六  よって、右否認権の行使により、原告が別紙目録一、二記載の供託金の還付請求権を有することの確認を求める原告の本訴請求は、その余に点につき判断するまでもなく理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大和陽一郎 裁判官大竹昭彦 裁判官内野俊夫)

別紙〈省略〉

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